ツバキはツツジ目ツバキ科ツバキ属に属し、ヤブツバキが代表的な野生種です。サザンカと近い種で花もよく似ています。ササザンカとツバキの違いはこちらのページへ。
ツバキは他家受精し変異種を作りやすく非常に多くの園芸種があります。同じ種類とは思えない個性的な花をそれぞれ咲かせ、その違いを鑑賞するのが楽しい花です。
日本に有史前から存在し伊豆大島では葉の化石が発掘されています。また万葉集の時代には和歌(長歌)に歌われていますが平安時代には中国から持ち込まれ流行したウメやサクラに比べてほとんど歌には取り上げられません。一方で古くからあることから椿市(または海石榴市 「つばいち」とよみます)の地名や椿餅という菓子の名前に椿の名が織り込まれています。
時代が下って茶の湯が興るころ茶花や茶器のモチーフとして椿が取り上げられるようになります。桜や梅に比べて、椿の濃緑の葉と濃紅の花でやや暗い茶室に似合う落ち着いた佇まいが好まれたのでしょう。
とは言え、華々しいのが好まれるのも世の常。江戸時代には各地で品種改良された様々な種が生み出されます。それぞれの種の見方はこちらのページへ。椿は花が丸ごと落ちるので武士には嫌われたと言われますが、文献上では認めらず憶測ではないかと思います。椿は花が美しく成長が遅く庭木に向くため、士農工商問わず愛でられたと考えています。
近年では椿は俳句で頻繁に取り上げられるようになります。
賽銭のひゝきに落つる椿かな 子規
のように花全体が落ちる様子をモチーフにしたものが多く、落花(落椿)の印象が現在でも強いようです。茶花としての人気は続いており、庭木としても青森県以南の日本全体で親しまれています。全国各地に分布し、栽培されていますが、伊豆大島の東京都立大島公園椿園や伊豆半島の小室山公園つばき園などが特に有名です。
ツバキ油はヤブツバキの種を原料として採取されます。採取方法は圧力をかけて種を絞る圧搾と種を有機溶剤に浸して油分を抽出してから有機溶剤を分離する溶剤抽出の2つの方法があります。前者の方が香りや風味が保たれた上質の油になりますが、収率が下がるので高価にもなります。ツバキ油は古くから美容に使用され、髪に塗ればその艶をまし、肌に塗れば保湿効果が期待できます。
また木質が固いため木炭の原木としても非常に優秀です。古くから産地では利用されてきましたが、ツバキの成長が遅いこと、木炭の消費量が減っていること、産地の高齢化など様々な要因が重なりツバキ油ほどに体系化された産業にはなっていないのが現状です。但し、椿炭活用の機運もあり今後、流行するかもしれません。
ツバキに関する産業が盛んなのは伊豆諸島(大島、利島)や長崎県五島列島(五島市)などです。双方とも米作や畑作が難しい島嶼地で土地に多いツバキを旧来から年貢・産業にしてきた歴史があります。