三河数寄屋 - 数寄屋系は庭木で好まれます

庭木の椿選び

椿は「美しい花が咲く」、「開花期が長い」、「比較的病害虫に強い」、「常緑樹である」という適した特徴を持つため庭木に好んで用いられます。上の写真は三河数寄屋。数寄屋系の椿は手入れが良いと薄桃色の花を多くつけるので人気です。ここでは庭木として椿を選ぶ際のポイントを思いつくまま記載します。

木の大きさ

椿は育てやすく、苗から育てるのも楽しいものです。しかし、「椿は成長が遅い」ので、0から造園する場合 はある程度成長した木(古木)を検討すると良いでしょう。 少々割高ですが、最初から整った木姿である程度の数の花を咲かせてくれるのは魅力です。 また十分な大きさがあれば花のある枝を大きめに剪定(強剪定)した切り花も楽しめます。(あまりたくさんは無理ですが。)

加茂本阿弥 - 加茂本阿弥も古くから好まれました

古典椿の代表的品種加茂本阿弥。比較的木が強く、座りの良い蕾と黄色い蕊が特徴的な白色の花が魅力です。茶花としても人気。

種類の選び方

花は好み次第ですが、折角椿を選ぶなら「他の花がない時期に開花期が長い」ものが良いと思います。 品種によって開花期が短いものがあり注意が必要です。 また大輪や極大輪の品種は椿といえど肥料をマメに施すなどある程度手をかけてやる必要があり、 手抜きは花が少ない、小さい、咲く途中で落花するなどの残念な結果の原因になります。 美しい花を咲かせるには手間が必要なのです。

市販の苗や古木は庭木向けのものが多く大失敗は少ないです。 こじんまりした庭やベランダなら小輪~中輪のヤブツバキ数寄屋加茂本阿弥春曙光などが開花期も長く一般的です。 好みによりますが曙も比較的入手しやすい品種です。 木全体のサイズに見合った大きさの花をつける種類が庭木向きだと思います。 庭木には小輪~中輪種を選択し、少々手がかかりますが大輪種を鉢植えで楽しむのが贅沢で良いというのが私の勝手なお勧めです。

黄覆輪弁天 - 覆輪系の葉は庭木のアクセントにもなります

黄覆輪弁天 - 覆輪系の葉は庭木のアクセントにもなります。

庭木として考えるなら葉も重要です。(桜や梅と異なり)ツバキは常緑樹なので葉は年中楽しむことができます。 シンプルに濃い緑の葉も良いですが、斑入り葉の品種(越の吹雪、黄覆輪弁天など)の葉は花のない時期でも明るい印象になります。 また金魚葉椿も面白いものです。

ある程度大きくして多くの花を付けさせたい場合は木姿も考慮する必要があります。上に育つ(立性)種類と横に育つ(叢生)種類があります。椿の場合、庭木に向く立性のものが多いですが乙女椿や光、陸奥侘芯等はかなり横に張って育ちます。(ここに挙げた三種は人気のある種類でもあります。)スペースがなくなると泣く泣く育った枝を落とさざるを得なくなる場合もあるので注意が必要です。 寒椿 - 寒椿は安価で開花期が長く、育てやすい

寒椿 - 寒椿は安価で開花期が長く、育てやすい

椿の育て方

植え替え

植え替えは極力、寒い時期と暑い時期を避けます。もし葉や枝が茂っている場合には先に剪定してしばらくしてから植え替えます。 苗を鉢植えにする場合は一~二回り大きな鉢に植え替えます。 赤玉土を主体に鹿沼土と腐葉土を2割程度ずつ混ぜて水はけのよい土に植えつけます。 なお椿は酸性土を好みます。新しいコンクリート塀などの近くでは土がアルカリ性に偏りやすいので極力避けます。 緩効性肥料を置いて、水をたっぷりあげます。植え替え直後は弱りやすいので軒下・室内などで1週間程度慣らします。 ポイントはあまり大きな鉢にしないことです。木が育とうとして翌年の花が付きにくくなる場合があります。 庭植えの場合は風通しが良く水はけのよい場所に植えつけますが、深植えにならないように注意します。 植えつけ当初は支柱を使うと定着が早くなります。

剪定

椿の手入れで一番重要なのが剪定です。風通りが悪くなると病害虫の原因になります。 特にチャドクガは込み入った葉につきやすく、常に向こうが見えるくらいの葉量を保つように剪定します。 チャドクガの天敵は鳥類と肉食の昆虫・クモ類です。彼らは視覚で餌を探しますので、チャドクガが隠れられない程度の剪定が効果的なわけです。 基本的には「内側」「内側に向いた」小枝を剪定していきます。一度に剪定するよりマメに剪定する方が木の負担が少なく好ましいです。 小さい毛虫が葉の裏に並んでいたら、それがチャドクガです。 決して触らずに葉を剪定し丈夫なビニール袋に入れて捨ててしまいましょう。 大きな毛虫はすでに木の全体にいる場合が多く、その場合は殺虫剤を使用して駆除します。

剪定した枝についていたチャドクガ。チャドクガの幼齢幼虫はこのように並んでいることが多いです。大きさは5~10mm位。小さいと思って油断は大敵です。毒のある毛の被害は大きさに関係なく、触ると炎症を起こします。なお卵はスポンジっぽい毛におおわれていてこれも触らない方がよいです。

チャドクガの毒針毛がよくわかる画像。この毒針毛は幼虫の脱皮殻にも残っているので触らないように注意しましょう。更に大きくなって中齢~終齢幼虫になると食害がひどくなりますので殺虫剤による対処が必要です。特殊な殺虫剤は必要なく家庭用の殺虫スプレーでもある程度効果があります。勿論死んだ後にも毒針毛は触るとかぶれます。なお成虫は幼齢幼虫と同じような色で、左右の羽に黒い点がある蛾です。勿論毒針毛を持っていて触らないように注意が必要。本当に厄介な害虫です。

季節のお手入れ―春

最後まで花を楽しみます。開花期に肥料を与えると落花や花の変形の原因になるので避けます。落ち椿も良いものですが暖かくなると病気の原因となります。湿気が加わると病気が発生しやすくなるので、雨が降る前は落花の片づけます。花が終わったら肥料を与えます。鉢植えは幹から極力遠い位置に油粕または固形肥料を置き肥します。地植えは幹の近くを避けて、枝の下あたりに10cmほどの穴を3~4か所(背丈大の木の場合)掘り油粕と腐葉土を半々に混ぜて埋め込みます。上から掘った土をほんの少し盛り上がるくらいかけます。そのままでも肥料の効果は同じですが、虫が発生しやすくなります。またハイポネックスのような液体肥料を指定された濃さで葉に散布するのも効果があります。農作物では一般的ですが意外なことに椿も肥料の葉面散布が効果的です。なお施肥は花が終わってから2か月の間に行い、暑い時期は避けます。

季節のお手入れ―夏

椿も真夏は弱ることがあります。鉢植えの場合は軒下などで日を避ける工夫が有効です。地植えは剪定をこまめにして風通しを良くすることに留意します。水やりは朝夕に行い、日の高いうちは避けます。2週に1回程度、夕方の水やりの後、水が切れた葉に炭酸水素カリウムを1000倍に薄めた水溶液を葉面散布します。これは病気の発生を防ぐ意味とカリウム補充の両方の意味があります。蒸発して溶液が濃くなるのを避けるため必ず「夕方」に散布します。早咲きの種類では蕾がつき始めるので、大輪品種では咲かせる蕾以外をハサミで上から半分を切って摘蕾(つぼみを取る)します。残す蕾は枝の先の一番大きな蕾とその次の次の花芽で一番大きな蕾です。小輪~中輪の品種は摘蕾は必要ありません。

季節のお手入れ―秋

涼しくなったら肥料を春と同様に10cm程の穴を3~4か所掘って肥料を埋め込みますが、肥料は窒素分の少ないものを選びます。椿は葉の量に比べて多くの花をつけるためリン・カリ分が重要です。お勧めは「いも・まめ専用肥料」です。夏と異なり水やりは椿の周りの地面を見て行います。蕾が育つための肥料吸収に水分が必要なので椿の周りの土が乾く前に十分に水を与えます。夏の炭酸水素カリウム水溶液の葉面散布は蕾が大きくなって色づいてくるころには止めます。多くの大輪品種で蕾がつくので適宜、摘蕾を行います。晩秋には寒さを避けるため藁や枯葉、チップを根元に厚くひくと良いです。椿は浅く根を張るので根の寒さを嫌います。また大輪品種や若い木は支柱を使い蕾の付いた枝が揺れないようにします。蕾が蕾同士や葉とぶつかると開花したときの花弁の傷になります。

季節のお手入れ―冬

開花時期は手入れをするよりも鑑賞が主になります。冬場の雨の少ない地域では時々潅水不足になるので周りの土が乾かない程度に必ず朝方に潅水します。夕方の潅水は翌朝の霜の原因となるので避けます。肥料は秋に十分与えておけば冬場の施用は必要ありませんが、特に寒い時には保温を兼ねて腐葉土を軽く木の周りに盛るのは効果的です。これまでの手入れが報われる開花期は本当に楽しいものです。