浮舟(うきふね)は鋸歯の目立たない中型の丸葉を持ち、花は淡い桃色で八重の抱え咲が美しい椿です。木は立性で上に育ちます。淡い桃色が端正で黄色のはっきりした蕊とのコントラストが特徴的です。椿には源氏物語にちなんだ名前を持つものが少なくありません。例えば、光源氏、葵の上、源氏合、明石潟などなど。筆者は勝手にこれらを「源氏物」と呼んでいますが、この浮舟もその一つです。(写真 都立大島公園椿園)
源氏物語最後のヒロインを思い出します。当代の美男の代表格匂宮と薫君の両人に愛せられ、その両人の愛ののっぴきらなさに耐えかねて浮舟は宇治の川に身を投げます。行方不明になった浮舟は二人とも死んだものと思っていましたが後日生きていることを薫が知り面会を果たそうとします。しかし浮舟がそれを固く拒絶して、一人の尼として生きていく…という件で源氏物語は終わります。
考えてみれば少女漫画でもありそうなストーリーなのです。古今東西、イケメンに囲まれることを夢見るのは少女ならずとも老若問わず女性の夢であり、「うける」ストーリーの典型かもしれません。
源氏物語の女性たちは最後には出家してしまうことが多く、ストーリー上もそれでその女性は別世界という扱いになります。源氏物語の最大のヒロイン紫の上は望みつつも出家を源氏に許されないまま死んでしまいます。これは彼女に執着する源氏の未練と彼女の自らの人生を別世界に移行することで落着させることが出来なかった不運を強調しています。
翻って、浮舟は再開を求める薫をはねつけて、すでに出家した身を俗世に戻すことはありませんでした。出家前の浮舟は割と匂宮と薫の間でフラフラしている印象なのですが、最後の最後でヒロインらしい姿を見せます。
とはいえイケメンを蹴って出家するのが女の自立なんて読みは野暮の骨頂だと筆者は思っているのですがね。
ぽってりとした印象の花に好感が持てます。
立性で上に育ちます。